手紙を書く僕の手が見える。
僕から君への想いを丁寧に書いている。
一文字を書くごとに僕の心臓は鼓動を増していた。
いつもより少し早い時間に僕は学校へ走った。
彼女はいつも早く学校へ来る。だから僕も今日は早く行くのだ。
まだ誰もいない学校に忍び込むのは何か悪いことをしているようなそんな不思議な感覚がした。
憧れの彼女は単語帳を開いて勉強をしていた。朝日に照らされてとてもきれいだった。
「今日の放課後話がある。屋上に来てくれないか?」 「分かった」 そう彼女は言葉を発してどこかに消えていった。
その日の授業は落ち着かなかった。出してしまったと言う後悔と、昂る気持ちがお互いに行ったり来たりして。
夕日が窓から差し込んでいる。
「今は昔、竹取の翁といふ者ありけり。」 掠れてシワのある声が聞こえる。白髪の生えた歳を感じる古文の教師は確か50代だったはずだ。もう今日の授業は終わる。僕は眠い目を擦りながら髪を整える。
一段一段しっかりと屋上へ行く階段を踏み締める。
錆びた鉄のドアはぎしぎしと音を立てて開いていく。
そこに彼女はいた。僕に気づいた彼女は、涙を浮かべて近づいてきた。
「ごめんなさい」 そう聞こえたあと世界がぐにゃぐにゃして回転していった。
目が覚めると僕は自室のベッドの上にいた。
僕は呟いた。
あぁ素直に生きられればな、と。
この夢も何回見たのだろう。
この夢を見ると朝は動けなくなる。
昔から君は僕の、大切から外れたことはなくてずっと一緒にいて、ずっと話してきたかけがえのない存在だ。
机の上には少し埃のかぶった封筒が見える。
今日こそは、この手紙を渡すのだ。
僕は少し早い時間に家を出た。
そう。夢と同じように。
夢と同じように僕は彼女のいる学校に行く。
「今日の放課後、屋上に来てくれないか?」 「分かった」 思ってた通りの返事が返ってきた。
あとはいつもの古文の授業を待つだけだ。
君は僕のずっと前にいる。目が悪いから前にしてもらってるんだそう彼女は言っていた。
彼女のコンタクトケースは僕が一年前に買ってあげた鳥が書かれているお世辞にもかわいいとは言えないものだ。だけど彼女はとても愛用してくれている。
そんな日常が僕の生きる目的だった。
「今は昔、竹取の翁といふ者ありけり。」いつもの聴き慣れた文が聞こえる。何回この授業を受けただろう。
僕の目は閉まりかけていない。とてもさっぱりとした目をしている。
チャイムがなった。この時が来てしまったのだ。思っていたよりも屋上への扉は錆びていなかった。僕はもうこれが上手く行かなくてもいいやって思える気がしていた。
漫画のように学校の広い屋上で手紙を差し出す。ありきたりかなと考えていながら、僕は生まれてみんなが持っているけど大切な使い古された言葉を叫んだ。
けれど聞こえてきたのは笑い声で馬鹿にしたような目をして今までの想い出を壊すようなそんな現実が流れ込んでくる。
「私が君といたのは、どうしてかまだ分からないのね?」 「君が勘違いしてくれて、私は虐められず、君が狙われるんだからさ」 「感謝してるよ、私の盾になってくれて」 「これからもまた、よろしくね?」
……..あぁ、やっぱり人は醜かった。
自分を守るため人を利用することを躊躇わず、人を捨て駒として見る。
なんだ。君もそうだったのか。
いや、この世界がきっとそうさせたんだ。
僕はぐしゃぐしゃの手紙を握り締め君の手を取り、柵を飛び越えた。
空を滑る。
鳥になりたかった。そう言ってた君の夢を叶えられたような、そんな気分になっていた。
よかった、最後に君の夢を一緒に叶えられて。
でも、君は驚いたような、そして怖がったような顔を見せる。
もう大丈夫、怖くない。
次こそは素直に生きようと、そこで誓った。